夜の飲み屋街、華やかな女性の勧誘の声、
煌びやかなネオンの灯り、
酔いしれた大人たちがスマホを片手に行き交う中、
1軒だけ白く優しい灯りが僕に手招きしているように見える。
50年以上この街にひっそりと佇まい、お酒で高揚した気持ちを静めてくれる。
居酒屋でもなければ、料亭でもない、小さな茶屋がそこにはある。古びた入口は年季が入っていて、いつ行っても立て付けが悪い。
ガラガラガラと引き戸を引くと、鼻をくすぐる出汁の香りがほんわりと漂ってくる。
カウンターが6席、座敷は2テーブル、4人大人が座るには狭すぎる昭和の空間が広がっている。
大将は今年で90になり、支えるおかみさんも化粧がバッチリ決まっているが、近い年齢だろう。
今年で52年目だそうだ。僕よりもこのお店の方が先輩である。
変わらない場所で、変わらない味と安心を届けている小さな茶屋。
夜の飲み屋街の酸いも甘いも静かに見守ってきたのだろうと思うと、心からの敬意が生まれる。
足が地面につかないほどの高いカウンター席に座ると、メニュー表ならぬ「献立表」が置かれている。
当然、献立表には値段が書いていない。
また冷蔵のショーケースには、ひとつひとつの身が大きい焼鳥のネタが並んでいる。ひとつ食べれば、おなかいっぱいになる大きさだ。
「いらっしゃい」の声とともに、通されるのが『おしんこの盛り合わせ』毎日、大将が漬けている味はほどよい塩味で最高である。
そうそう、飲んで食べた後には「おしんこ」が最高なんだよと胃袋も喜んでいる。
瓶ビールをグラスに注ぎ「おしんこ」を摘まむ。今日の飲みの場を振返りながら、熱を少しずつ覚ましていく。
献立表に唯一、太字で書かれているものがある。それは「しらあえ」である。
僕が知る限り、20年前初めて食べたあの時と今も味は変わっていない。どこか懐かしく、安心を届けてくれる味だ。
どれだけの人が、この「しらあえ」に救われたのだろうかと想いをふせる。
そして僕が必ず最後に頼むのが「貝汁」お椀に溢れんばかりに山積みされた「あさり」そして、細かく刻まれたネギが浮いている。
最初にスープをいただくと、必ずやけどをする。それぐらい激熱だ。
この貝汁が、酔いを少しずつ覚ましてくれる。
そして、翌日の体調まで救ってくれる。
毎度のことながら「おいしい」と思わず声に出てしまうと、いつもおかみさんが笑顔で喜んでくれる。
人とお話することが楽しくて、52年間続いているということだった。
もちろん毎日、店を開いているわけじゃない。
それでも自分たちのペースでゆっくりと続けてきたんだと思う。
平坦な道じゃなかっただろう。コロナの時期なんて、お客さんはほとんど入らなかったに違いない。
それでも、変わらぬ場所、変わらぬ味で続けている。
広告はない、呼び込みもない、ただその場所に優しい灯りがともされているだけだ。
今日を優しく終わらせてくれて
明日へ向けてそっと背中を押してくれるそんな場所。
壁には市長からの感謝状が飾られていた。誇らしげにおかみさんが教えてくれた。
この茶屋は、自分らしさというものを教えてくれる。
着飾らない、優しい味、頑張り過ぎない。
それでも、通い続けてくれる根強いファンがいる。
また自分のペースというのも教えてくれた。
急がなくていい、いつもの場所でゆっくりと。
時々休みながらも続けていくことが、大切なんだって。
僕は街に出るたびにこの茶屋で夜を終える。そして、明日への活力をもらっている。
あなたが僕の街を訪ねてくることがあった時、ぜひ一緒に古びた引き戸を開けようじゃないか。
そして、そっと背中を押してもらおうぞ。
安心してほしい。お会計は1人2,000円以上支払ったことはない。どこまでも良心的だ。
あなたが今、脳裏によぎった安心できる場所がきっとあるに違いない。ぜひコメント欄で教えてください。
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全部美味しそうだけど、
あさりのお味噌汁飲みたくなりました🥺🤲🏻!!
なんと素敵な場所🌱
初めてでも、なんか安心できるお店な感じがします☺️
な〜んにも考えず、ホッとできるのがいいですね😌