深夜の高速道路。後部座席の子供たちはスヤスヤと眠りについていた。
眠気が少しずつ襲ってボーッと運転している時、助手席の妻が口を開いた。
「あなたにとっての人生の分岐点は?」
さっきまで、旅先での食事の話をしていたのに、急に重くない?
そんな感情を抱きながらも、人生の分岐点について考えた。
これは、僕と妻の結婚に至るまでの物語だ。
妻は自由な人だ。さっきの質問みたいに、考えていることもコロコロ変わる。
そして、おもいのままぶつけてくる。
質問の答えを考えていると、既に頭は次の思考の旅に出かけている。
いってらっしゃいの前に出かけていくし、おかえりなさいを言う機会も少ない。
ショッピングモールに出かけると、必ずいなくなる。言いすぎでしょ?と思うだろうけど、ほぼ毎回だ。
でも、そんな妻に振り回されるのは昔から嫌いじゃないんだ。惚れた男は弱い。
あ、そうだ。「人生の分岐点」の話だった。
質問をくれた妻に僕は即答した。今日は、思考の旅にはいかせない。
高速道路の道中は、まだまだ長いからね。
「僕の人生の分岐点は就職の時だね」
妻は、静かに聞いていた。
24歳の春
大学院の卒業の年、僕は就職先に悩んでいた。
大学院への進学は仕事をしたくない、彼女と過ごしたい延命措置で残ったようなものだった。
妻(当時彼女)は1つ年上で、大学がある県内の公務員として働いていた。
大学時代に取った資格を元に2年間の臨時採用を経て、ついに正規採用された1年目だった。
僕は2社の内定を受けていて、1社は彼女と同じ県内にとどまる可能性が高かった。
もう1社は僕自身の地元の県、車で3時間かかるほどの距離だった。
これまで通り一緒に過ごすなら、地元に帰る選択肢はなかった。
でも僕が選択したのは、地元の企業への就職。
ここが僕の人生の分岐点だと思っている。
驚く彼女と離れていく想い
6年間の交際の中で、僕は彼女が望まない選択をすることはほとんどなかった。
でも、この期に及んで人生を左右する就職先の選択肢は彼女が望まない方だった。
彼女も僕といるために、大学がある県内の公務員を目指して、それを成し遂げていた。
それなのに、あなたはどうして私から離れていくの?裏切られたような気持ちだったのだろうと思う。
わざわざ身寄りのない彼の地元に行く必要はあるのか?
私は公務員として働き出したばかりで、この土地で安定した生活を送れるのだ。
彼女の想いに気づきながら、少しずつ心の距離ができていくことを感じていた。
それでも僕は、地元への就職を曲げることはしなかった。
僕が地元就職にこだわった理由
親のこと、仕事の内容ももちろん理由のひとつではあるが、それは枝葉に過ぎなかった。
僕はこれまで通り彼女と過ごしても、どこかでうまくいかなくなる予感があったのだ。
これまで一緒に過ごした6年が本物なのかどうか?いつも不安だった。
彼女にとって僕は思い通りにいく存在だった。
僕は彼女が望むことも受け入れてきたし、嫌がることを避けてきた。
だからこそ、ふと思うことがあった。
もし僕が彼女の思い通りにならなくなったら、それでも彼女は僕を好きでいてくれるだろうか?
でも社会人になると、常に彼女の期待に応えられるとも言い切れない。
そのとき、僕たちはどうなるんだろう。
そんなことを考えるほど、胸の中に「このままじゃダメだ」という気持ちが日増しに大きくなっていった。
確かに年齢も僕がひとつ下ではあるし、結婚の相手は年上が理想だとも話していた。
たかが、車で3時間程度の遠距離を乗り越えられなくて、本当の愛には辿り着けない。
本気でそう思っていた。その覚悟が、地元への就職だった。
別れの春
僕は6年間お世話になった土地を離れ、地元の県に戻る身支度をしていた。
最後まで彼女は、僕が地元への就職を辞退することを望んでいたのだと思う。
でも、それを口にしてはいけない。僕の人生の邪魔をしちゃいけない。そういう風にも見てとれた。
心配しないでくれ!僕は1年後必ずプロポーズをするために戻ってくる。
そう心に決めて、車のエンジンをかけた。
ケツメイシのさくらが流れる中、精一杯の笑顔で彼女に手を振った。
お互いに涙の別れになった。
一時的なお別れのはずなのに、彼女の涙はそう感じさせてはくれなかった。
そして僕にとってケツメイシのさくらは、切なくて悲しくて大嫌いな曲になった。
(僕の人生の分岐点 ”もう一度、彼女と会うことを決めた日”に続く)



急に人生の分岐点聞かれることあるんですね
うちの妻とはそんな濃い話ししたことないですね😅
続き、楽しみにしてます🥰