年に1度、夜更かしができる日の大晦日。
小学生の僕は毎年、この日が来るのを心待ちにしていた。
両親と4つ年上の兄。4人家族の僕たちは小さなコタツを囲み、紅白歌合戦を家族で見ていた。
その時、テーブルの上には必ず麻雀牌があった。
最初は、ドラえもんのドンジャラだったはずが、いつしか麻雀牌に変わっていた。
「ドンジャラよりも麻雀の方が面白いぞ!」
そんな父の思惑だったに違いない。
かくして僕は、小学校低学年の時点で麻雀を覚えることになったのだった。
負けず嫌いなたれ少年
僕は昔から、本当に負けず嫌いだった。
覚えたての麻雀であっても、負ければ悔しい。
勝てずに泣きわめいていたのもいい思い出だ。
でも麻雀は感情的になると、まず勝てない。
「時には自分の手を降りることも必要なんだよ」
と、父は僕を諭してくるが、話を聞こうともしない少年だった。
今なら分かる。父の言う通りだと。
毎年大晦日に麻雀をする。これが年末恒例の行事だった。
僕たち兄弟は、両親に「今年も麻雀やろう!」とよくお願いした記憶がある。
時に忙しい年末もあったけれど、両親は僕たちの頼みを聞いて、毎年麻雀をやっていた。
家族のぬくもりを感じる時間
麻雀は頭もよく使って楽しいものだが、僕が好きだったのは麻雀そのものではなかった。
牌を混ぜるときに手が触れ合って、家族の温度を感じたり。
1年間の思い出を振り返ったり。
コタツから漏れ出てきた臭いオナラに犯人をなすりつけ合ったり。
麻雀も楽しい。
でもそれ以上に、家族4人で1年を終えるこの時間が好きだった。
この温もりが、僕の家族に対する考え方の原点なのだと思う。
それから30年以上の月日が経った。兄も僕も結婚し、それぞれ家族を持った。
当然、年末に4人で麻雀をする機会はなくなっていた。
あの頃の温かい時間も、いつしか僕の記憶の奥へとしまわれていった。
2年前のことだった。母から、家族LINEに一通のメッセージが届いた。
「健康麻雀をはじめました」
とだけ書かれていた。
75歳を過ぎた母が、今度は麻雀を習い始めたらしい。
編み物、パソコン、そして麻雀。母は昔から、新しいことに挑戦するのが好きな人だった。
僕は
「手先も頭も使う麻雀は、ボケ防止には最適だね。」
そう返信したのを覚えている。
そのときの僕は、母がなぜ麻雀を習い始めたのかなんて、深く考えていなかった。
年始のごあいさつ
毎年、兄家族、たれ家族は年始に実家に集まってお祝いをするのが恒例になっている。
おせち料理、日本酒に舌鼓をしていた時、
「麻雀用のテーブルを買ったのよ」
母がそう言った。
床に座ってコタツに入るのが、少しずつきつくなってきたらしい。
だから、椅子に座って麻雀ができる専用テーブルを買ったという。
その時、日本酒を飲んでいた父がぽつりと加えた。
「お母さんがお前たちと麻雀するのを楽しみにしていたんだ」
元旦に孫6人、嫁2人を放置して、麻雀大会のはじまりである。
こんな家庭、どこ探しても見当たらないのではないか。
孫たちは自由にゲームで遊び、妻と義姉は楽しそうに話している。
その横で僕たち4人は、麻雀卓を囲んでいる。
よみがえる記憶
麻雀卓を囲む僕たちは、すっかりと年を取っていた。
無理もない。あれから30年以上も経過している。
でも、不思議だった。
30年経っているのに、そこに流れている空気は、あの頃と何も変わっていなかった。
そのときふと思った。
母も、あの頃の温かさを恋しく思っていたのではないか?
麻雀を習いながら、いつかこの日が来ることを楽しみにしていたのかもしれない。
我が子が小さかった頃のように、4人でテーブルを囲みたかったのかもしれない。
そう思うとより一層、この時間が愛おしく、ずっと続いて欲しいと感じるようになった。
孫、嫁さんがいると、どうしてもいい祖母や姑を演じなければならない。
もう、私にとって我が子は手から離れたことは分かっている。
嫁さんの邪魔をするつもりもない。
でも少しだけ、家族の時間をくれないかな?
そんな気持ちだったのかもしれない。
麻雀の腕を上げた母親は、その日1位を獲得した。
あの頃よりもずいぶんとくしゃくしゃになった笑顔は、輝いていた。
上機嫌のまま母は、孫たちをつかまえてお小遣いを渡していた。
あれはきっと、孫たちのお父さんの借り賃なんだと思う。
あと何度、麻雀をすることができるだろうか?
子供のころ、あんなにお願いしてやってもらっていた麻雀。
それは、僕の両親にとってもきっとかけがえのない思い出で。
もしかしたら今は、僕たち子供よりも親の方が楽しみにしているのかもしれない。
そして、ふと思った。
これは、いつか僕たち夫婦にも訪れる未来なのだ。
子供たちは、やがて家を出ていく。家庭を持つ子もいるだろう。
僕たち夫婦も、子供の家庭を邪魔したくはない。
パートナーとの時間を大切にしてほしいと思う。
それでもきっと、思う日が来る。
「少しだけでいいから、また家族みんなで一緒に過ごしたいな」
そう思うのだろう。
子供たちと行った幼稚園の遠足。
みんなで食べたお弁当。
沖永良部島で見た、あのきれいな海。
きっと僕も、いつかそんな思い出をもう一度抱きしめたくなるのだろう。
「あの頃に戻りたい」のではなく、「あの時間をもう一度だけ味わいたい」
きっと、そう思うのかもしれない。
家族との時間は、永遠に続くものではない。
だからこそ、今ある時間を大切にしたい。
そして来年もまた、同じ卓を囲みたい。
「母さん、また麻雀しよね。年始には必ず帰るから。」



読みながら涙が溢れてきました🥹もう一度昔を味わいたいというお母様の家族への想いが優しくじんわりと伝わってきました。私も小さい頃家族皆んなでコタツに入って色んなゲームをしてましたね。あの頃は家族でいる事が当たり前でした。素敵なお話しありがとうございました✨そして、私も麻雀最近始めましたw🤣難しいけど面白いですね!
たれめるとさん
ノミネートおめでとうございます🎉